急な対応に追われ、いつもより少し遅くなった休み時間。
ミサキは、子供の学校について相談しようと思っていたのに、
話す相手もいない静かな休憩室に、飲み物を買って入った。
スマホの通知を確認していたら、YouTubeをタップしてしまう。
でてきたのは、吹奏楽の動画。
“なんで私が吹奏楽やってたって知ってるの?”
そう思いながら、素直におすすめを見た。
出産、育児。忙しさに追われて、すっかり忘れていた気持ちを思い出した。
その夜、なぜか少し早く家についた。
クローゼットの奥から取り出したのは、触れるのも久しぶりなあの子。
開けると、懐かしい匂いとともに、あの頃の記憶がふっと蘇ってきた。
「もう一度、吹いてみようかな」
探してみると、意外と近所に吹奏楽団があり、思い切って見学を申し込んでみた。
もう一度楽器を見てみると、今度は気になる点がちらほら。
「こんなスワブでよく大丈夫だったな・・・グリスってこんなに硬かったっけ?」
いつの間にか衛生管理がレベルアップしている自分がいた。
次の休みには、ミサキは子供の買い物がてらショッピングモールにある楽器屋さんにいた。
「スワブと、グリスと・・・今こんなのあるんだ!」
久しぶりの楽器屋さんで心が踊る。
必要なものをカゴに入れたが、ミサキはここを離れたくなかった。
まだ吹いてもいないのに、足は楽譜コーナーへ。
「これやったことある!ソロの楽譜もカラオケいっぱいあるんだ!」
その時ふと目に映った楽譜があった。
Green Ray Saxophone Quartet Selections
-あの子を誘ってサクソフォンアンサンブル -「ねえ、一緒に吹いてみない?」



予定もないのに、自分に言われている気がして、いつかのためにカゴに入れた。
その日はあっと言う間にやってきた。
緊張で足取りが重くなりながらも、楽器を抱えて練習場の扉を開けると、
様々な年代のメンバーが楽器を手に集まっていた。
「よろしくお願いします…!」
メンバーたちは笑顔で迎えてくれた。和やかで和気あいあいとした雰囲気。
「ねえ、一緒に吹いてみない?」
見学だけのつもりでいたが、ミサキの隣にある楽器を見て言ったんだろう。
あの本と同じセリフを聞いて、つい参加してしまった。
久しぶりの合奏は、迷惑をかけながらも楽しかったあの気持ちを思い出させてくれた。
「今日の本番はこの店ね!」
どうやら本番とは、飲み会のことらしい。
「ごはんの用意があって…」
声が飛び交う中、ミサキはそっと帰り支度を始めた。
たまにはいいかもしれない。でも今日は夕飯何も準備してこなかったし・・・。
私はすぐに入団を決めた。
通いはじめて少し経ったころ、同じサックスパートのアヤカが声をかけてきた。
「それ、何の曲?」
アヤカは、私のスマホから漏れ出る音の正体を訪ねてきた。
「えっと、YouTubeで見つけたサックス四重奏の演奏で…」
「そうなんだ! 私も動画よく見るよ」
ミサキは、心が少し軽くなるのを感じた。
そして、ミサキはバッグからある楽譜を取り出した。
Green Ray Saxophone Quartet Selections
-あの子を誘ってサクソフォンアンサンブル -「ねえ、一緒に吹いてみない?」



「この楽譜、YouTubeでみてた人達が監修した楽譜で、動画を観ながら練習できるから一人で吹いてたんです。」
「いいね! 面白そう。ほかのメンバーも誘ってみようよ」
動画を皆で観てみると、自然と笑顔がこぼれた。
「わー知ってる曲ばかり!でも結構難しいんじゃない?」
「一応中級者向けみたいです。私もすぐは吹けなさそうだけど、演奏ポイントとかも書いてあって」
「あ、ソプラノサックスみんな持ってないんだよね…」
「アルト2本、テナー、バリトンの編成だからソプラノがなくても大丈夫みたいです。」
「そういえば、半年後の定演のプレコンサートにサックスパートでどう?って言われてたんだよね。」
「どの曲もとっても華やかで聴き映えがするアレンジだから、ちょうど良さそう。」
『いいね。やってみようよ!』
楽団の練習の合間、ほんの30分から始まったアンサンブル。
アンサンブルが楽しい、会話が楽しい。
ミサキには、どちらが楽しくてやっているのかわからなくなっていた。
「今度の定期演奏会のプレコンサートでやってみない?」
突然聞こえた声は、その姿を見た団長からの声掛けだった。
全員が口々に「大丈夫かなぁ」「えぇ・・・」と言うが、
言葉に反した表情を読み取ってミサキはこういった。
「私やってみたい!ねえ、一緒に吹いてみない?」
定期演奏会当日、合奏よりも緊張したプレコンサートは、打ち上げで団員のみんなに褒めてもらえた。
当日のアンケートを眺めながら、プレコンサートのチェックを数えてると「またやろうね!」とアヤカが声をかけてきた。
「他のパートにもゆずらないと」と言いながら、まんざらでもないミサキ。
あの日、昼休みにふと目にした動画から、こんな未来が待っているなんて思いもしなかった。
帰宅後、子どもたちに演奏の話をすると、
「ママ、すごい!今度は聴きにいってもいい?」
音楽を通じて生まれたつながりと、家族の笑顔。
その中心には、一冊の楽譜があった。
また吹きたいと思ったあなたへ。『ねえ、一緒に吹いてみない?』
商品情報
Green Ray Saxophone Quartet Selections
-あの子を誘ってサクソフォンアンサンブル -「ねえ、一緒に吹いてみない?」
Green Ray Saxophone Quartet 監修/宮本 正太郎 編曲
発売日 | 2025年6月15日(日) |
華やかなポピュラーメロディーズ | ¥3,300(税込) |
懐かしの昭和アイドルソング | ¥3,300(税込) |
口ずさみたくなるアニメソング | ¥3,300(税込) |



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この記事を書いたのは・・・
猪俣 明日美(いのまた あすみ)

サックス奏者、Green Ray Saxophone Quartetソプラノ担当。
音大卒業後、演奏で活躍していくためには見た目もとても大事だと気づき、パーソナルカラーやパーソナルスタイルアナリストの資格を取り、音楽家へ向けて見た目のコンサルティングを行っている。