吹奏楽では、ヤマハ・ヤナギサワ・セルマーといった定番ブランドのイメージが強いサックスですが、ポップスやジャズ、さらにはビンテージの世界に目を向けてみると、じつは驚くほど多彩なメーカー・ブランドが存在します。
フランスの名門からアメリカン・ヴィンテージ、日本の工房系ブランド、すでに合併・廃業してしまった幻のメーカーまで――。
今回は、そんなサックスメーカー・ブランドを「国」「系統」ごとに一挙ご紹介します。
(合併・廃業済みメーカーについては、資料の少なさゆえ一部あいまいな記述を含む可能性があることをあらかじめご了承ください。)
日本
YAMAHA

日本の楽器業界を代表する総合メーカーとして、精密な設計と均整のとれた音色で、世界中の教育現場からプロのステージまで幅広く使われているサックスです。
音程・操作性・耐久性のバランスが非常に高く、「どのジャンルにも安心して持ち出せる一本」として、吹奏楽・クラシックはもちろん、ジャズやポップスでもスタンダードな選択肢となっています。
【代表的な機種】
YAS-875EX:YAMAHAのフラッグシップモデルで多くのプロ奏者が使用しています。
YAS-62:1978年の誕生からマイナーチェンジを重ね今でも愛されているサックスです。
Yanagisawa

日本が世界に誇るサックス専門メーカー。自社工場での一貫生産による高い工作精度と、豊かな響きを追求した設計で、世界中のプロプレイヤーから厚い信頼を得ています。
なめらかな吹奏感とクリアで芯のあるサウンドが特長で、室内楽やクラシックサックス界での評価はもちろん、ジャズ・ポップスでも「均整の取れたモダン・サウンド」として選ばれています。ブロンズブラスやシルヴァーソニックなど真鍮製以外のサックスがあるのも特徴です。
【代表的な機種】
A-WO20:ブロンスブラスを用いることで倍音が豊かに響く、クラシック・ジャズどちらも対応可な万能サックスです。
A-WO37:世界中で愛される「Yanagisawaと言えば」なシルヴァー製のサックスです。
Woodstone

日本の工房系ブランドならではの、少量生産・職人技を生かしたサックスです。一本一本の個体を丁寧に仕上げることで、プロプレイヤーからも厚い支持を集めています。
反応の速さと重厚で深みのあるサウンドが特長で、特にジャズシーンを中心に、「既成の量産モデルとは一味違う個性」を求めるプレイヤーに選ばれています。
【代表的な機種】
Super Custom:ビンテージサックスと最新技術を融合させ、オールジャンルのニーズに応えるべく誕生した2025年1月発売の新モデルです。
New Vintage:独自のノウハウを注ぎ込んだ、現代の楽器でヴィンテージを極限まで再現した楽器です。
Forestone

日本発のブランドとして、独自の素材研究・設計思想を取り入れたサックスを展開しています。
超低温処理やロールドトーンホールなど、音色とレスポンスを追求したこだわりの仕様が特徴で、吹奏楽からジャズまで、幅広いシーンで「一歩踏み込んだ個性」を求めるプレイヤーに選ばれています。
【代表的な機種】
GX VINTAGE COGNAC:大きな音と芯のある暖かい音が特徴の、ジャズやコンテンポラリーなどのスタイル向けのモデルです。
Gottsu

マウスピースで知られるGottsuが手がけるサックス。少量生産ならではの精密な加工と、マウスピース製作で培った「鳴りのツボ」への深い理解が活かされています。
反応の速さと太くウォームなサウンドが特長で、ジャズ・フュージョン系を中心に「自分の息にダイレクトに反応してくれる楽器」を求めるプレイヤーから支持されています。
【代表的な機種】
Sepia VI:青銅製由来の独特の甘さや深みのある音が特徴です。付属マウスピースがGottsuなのも嬉しいポイントです。
KAWAI・Nikkan・Tanabe
いずれも現在はサックス製造を行っていないものの、日本のサックス史を語るうえで欠かせないメーカーです。ビンテージ市場では、個性的な一本として根強い人気があります。
画像は、Grassi Professional2000 のOEMとされる KAWAI EAS-240L(私物) です。

KAWAI(河合楽器)
ピアノメーカーとして知られる河合楽器も、2005年ごろまでは管楽器事業を展開していました。ドイツの B&S やイタリアの Grassi からのOEM供給を受け、「KAWAI」の刻印を入れたサックスを販売していました。
Tanabe(田辺管楽器)
田辺管楽器によるサックスで、のちに河合楽器に吸収されました。古いKAWAIサックスの中には、Tanabe製とよく似た構造のものがあり、両者の関係性がうかがえますが、詳細な資料は少なく、今なお情報を求められている分野です。
Nikkan(日本管楽器株式会社)
現在はYAMAHAに吸収されたメーカーで、YAMAHA初期モデルと共通点の多い設計が特徴です。なかでも IMPERIALE は当時の最高機種で、YAS-61を思わせる設計で知られています。
フランス
H.Selmer

言わずと知れたサックス界のトップブランドのひとつ。
Mark VI や Super Action 80 シリーズII をはじめ、多くの歴史的名器を生み出してきました。
一時期は「クセの強い上級者向け」というイメージもありましたが、近年の Supreme や Signature では音程・操作性が大きく改善され、現代的で扱いやすいサックスへと進化しています。
【代表的な機種】
Supreme:すべてのジャンルを高い次元で演奏可能な現行Selmerのフラッグシップモデルです。
Mark VI:Selmerの地位を確固たるものにした伝説的なモデルです。ビンテージサックスの代表として今でも数多く演奏されています。
Buffet Crampon

クラリネットの名門として知られるBuffet Cramponも、サックスの世界で数々の銘器を残しています。
Super Dynaction や S1 Prestige は、かつてセルマーと並び称されたモデルで、現在もビンテージ市場で高い人気を誇ります。
一時期サックス製造からは距離を置いていましたが、Senzo によって市場へ再参入し、特にクラシック界で高い評価を得ています。
【代表的な機種】
Senzo:銅製銅めっきが目を惹くBuffetCramponサックスのフラッグシップモデルです。クラシックで演奏されることが多いイメージですが、実はJazz適正もあります。
SML・Leblanc
どちらも現在はサックスの主力生産からは退いているものの、ビンテージファンから根強い人気を誇るフランス系ブランドです。
- SML(Strasser-Marigaux-Lemaire)
現在はオーボエで知られる Marigaux として名を残していますが、かつては「セルマー最大のライバル」とも言われるサックスメーカーでした。
Rev. D や Gold Medal などのモデルは、反応の良さと独特の響きで、今なお多くのプレイヤーを惹きつけています。 - Leblanc(ルブラン)
オーボエ・クラリネットで有名なメーカーで、過去にはサックスも製造していました。
現在はアメリカのConn-Selmer傘下となっています。
一時期は Yanagisawa のOEMサックスを「Leblanc」名義で販売していたとも言われ、日本との関わりも深いブランドです。
どちらのブランドも現行品は主にスチューデントモデルや一部地域向けに限られ、プロ向けの本格サックスはビンテージ市場での出会いが中心となっています。
AdolpheSax・Couesnon・Dolnet・Pierret
いずれも現在はサックス製造を行っていないものの、フランス製ビンテージサックスを語るうえで重要なメーカーです。
画像は、Couesnon Monopole II(私物)です。

- Adolphe Sax
サックスを発明した アドルフ・サックス 自身が創設したメーカーです。現在、ブランドとしては歴史的な存在となっており、その流れはSelmerへと引き継がれた形になっています。 - Couesnon(ケノン)
フリューゲルホルンなど金管で有名なメーカーですが、かつてはサックスも製造していました。1980年頃の工場火災をきっかけにサックス製造は終了したとされています。
画像のMonopole II(推定1950年代製)は、現代では珍しいロールドトーンホールを採用した当時の上級モデルです。 - Dolnet(ドルネ)
角張ったキイガードが特徴的なデザインで、1980年頃までサックスを製造していました。ベルが(奏者から見て)かなり左を向いている M70 など、クセのある設計のモデルも存在します。 - Pierret(ピエレ)
1970年頃までサックスを製造していたメーカーで、Super Artiste などのモデルで知られます。比較的シンプルなデザインながら、しっかりとした作りと味わい深いサウンドを持っています。
Adolphe Saxを除く3メーカーのビンテージサックスは、流通数こそ少ないものの、アメセルMark VIなどに比べると手に取りやすい価格帯で販売されていることも多く、「アメセルは憧れるけど、まずは手の届くヴィンテージから試してみたい」という方にとって、非常に魅力的な選択肢です。
アメリカ
Cannonball

アメリカ・ユタ州発のハンドメイド系サックスブランド。
少量生産で一本ずつ丁寧に仕上げられるサックスは、個性的な外観と存在感のあるサウンドで世界中のプロプレイヤーから支持されています。
太く力強い音色と、ポップス・フュージョンの現場でも埋もれない抜けの良さが特長で、「見た目もサウンドも個性派でいきたい」プレイヤーにぴったりです。
【代表的な機種】
T5-BiceB -Raven-:ブラックでマットな外観に加え、ビッグベルということで見た目も音も迫力のあるステージ映えするサックスです。
Eastman

アメリカ発のブランドで、「伝統的な設計+現代的な改良」をコンセプトにしたコストパフォーマンスの高いサックスを展開しています。
しっかりした芯のある温かいサウンドと、扱いやすい吹奏感が特長で、プロ・アマを問わず幅広い層から支持されています。
特に Bob Mintzer シグネチャーモデル に代表されるように、ジャズ・フュージョン系の現場で評価が高く、「現代的なアメリカン・モダン」な印象のブランドです。
【代表的な機種】
ETS852NL:Bob Mintzer シグネチャーモデルです。
Conn-Selmer
Conn-Selmer は、その名の通り Conn や King, Selmer USA, Leblanc など、アメリカの歴史ある管楽器ブランドを傘下に収める企業グループです。
現在は、スクールバンド〜セミプロ向けのラインナップを中心に、アメリカ国内の教育現場を強く支える存在となっています。
Selmer USA
フランス・パリの H.Selmer が生み出した Mark VI / Mark VII を、アメリカ市場向けに独自仕様で組み上げていたのが Selmer USA です。
アメセル=フラセルボディのアメリカ組み上げ
- フランス本社:Mark VI などのボディ(管体)を製造
- アメリカ(Selmer USA):そのボディに、独自のネック・キーワーク・ラッカーなどを施して最終組み上げ
この「フランス製ボディ × アメリカ組み上げ」の個体が、通称 アメセル と呼ばれるモデルです。
同じ Mark VI でも、
- フラセル:フランスで完結して組まれた個体
- アメセル:フランス製ボディをアメリカで組み上げた個体
という違いがあり、ビンテージ市場ではキャラクターの違いとして語られています。
後継モデル Mark VII まで、Selmer USA はこの「フラセルボディのアメリカ組み上げ」を行っていましたが、Mark VII 生産完了以降は、このスタイルを終了。Selmer USA は独自設計によるプロモデルとして Omega(オメガ) を展開しました。
現在ではConn-Selmerへと再編されています。
Conn・King
Conn と King は、どちらもアメリカを代表する歴史的サックスブランドで、現在は生産完了となったビンテージモデルが中心です。
とはいえ、そのサウンドと存在感から、いまなお世界中のプレイヤーに愛され続けています。
画像はConn 28M です。

- Conn(コーン)
太くパワフルで抜けの良い音色が特長で、「これぞアメリカン・ヴィンテージ」と言いたくなるような骨太なサウンドが魅力です。
ジャズやポップスの現場で、バンドサウンドの中でもしっかり前に出てくる存在感を求めるプレイヤーに愛用されています。 - King(キング)
Super 20 などの名機で知られ、明るく抜けの良いサウンドとキレのあるレスポンスが魅力です。
ジャズやポップスで「鋭さ」と「華やかさ」を両立したトーンを求めるプレイヤーに特に人気があり、いまもビンテージ市場で高く評価されています。
現在、ブランド名としては Conn-Selmer 傘下に残っていますが、プロ向けサックスの製造は行われておらず、
実際にプレイヤーが手にするのは、主にビンテージ個体となります。
Buescher・Martin
どちらもアメリカを代表するビンテージサックスブランドで、Conn・Kingと並び「アメリカン・ヴィンテージ四天王」とも言える存在です。
- Buescher(ブッシャ―)
暖かく包み込むようなトーンと、まろやかな吹奏感が特長のサックス。
Aristocrat, 400 Top Hat & Cane などのモデルは、今なお多くのプレイヤーから愛され、ビンテージ市場で根強い人気を誇ります。
柔らかめのリードやビンテージマウスピースとの相性も良く、スウィングジャズやオールドスクールなサウンドを志向するプレイヤーにはたまらない一本です。 - Martin(マーチン)
ガツンとした芯のある音と、独特の重厚感が魅力のブランド。
Committeeなどのモデルは、その個性的な音色とデザインで、今も多くのジャズプレイヤーに愛用されています。
ダークでありながら抜けの良いトーンは、モダンジャズ〜ハードバップ系のサウンドにもマッチします。
いずれも現行生産はなく、ビンテージ個体のみの世界になりますが、アメリカン・ヴィンテージらしい「太くて存在感のある音」を求めるなら、一度は試してみたいブランドです。
ドイツ
Julius Keilwerth (ユリウスカイルヴェルト)

ドイツ発のサックスブランドとして、厚みのあるダークなサウンドと、独自の設計思想で知られています。
「The New King」「Toneking」などのビンテージモデルに加え、現行のプロモデルSX90Rでも、ジャズ・ポップス系プレイヤーを中心に根強い人気があります。
かつては他国にOEM品を多く出荷しており、あまり聞きなじみのないブランドが実はKeilwerth製だったということがままあります。
【代表的な機種】
SX90R:派手な見た目ですが、実はクラシックも演奏できる万能サックスです。ロールドトーンホールやG#キイの貼りつき防止機構など、今では珍しい仕様を採用しているのも特徴です。
B&S

旧東ドイツのブランドとして、堅牢な造りと落ち着いたサウンドで知られています。東ドイツ時代はKAWAIがブルーレーベルと呼ばれるミドルクラスの堅牢なサックスを輸入しており、中古市場でもよく見かける存在です。
現在は金管楽器メーカーとなりサックスは製造していませんが、「しっかりしたドイツ製サックスを、比較的手ごろな価格で探したい」というプレイヤーにとって魅力的な存在です。マウスピースで有名なデイヴ・ガーデラの名前でサックスが販売されていた時に、製造を担当していたのもB&Sです。
画像は私物のB&S Series2001です。
Weltklang
旧東ドイツで生産されていたブランドで、現在はサックスの製造は行っていません。
シンプルで堅実な造りと頑丈さが評価され、「東ドイツ製ビンテージ」として現在も中古市場で見かけることがあります。
イタリア
Rampone&Cazzani (ランポーネカッツィーニ)

少量生産を貫くイタリアのハンドメイドサックスブランド。
一本一本を丁寧に仕上げたサックスは、厚みのあるダーク寄りのサウンドと、有機的なレスポンスが特長です。
ジャズや即興演奏のシーンを中心に、「工業製品というより、楽器職人の作品としてのサックス」を求めるプレイヤーに選ばれています。
BORGANI (ボガーニ)

イタリアの老舗ブランドで、多彩な仕上げと独自の設計から生まれる、個性的なサウンドが魅力です。
イエローゴールド、パールシルバーなど、素材やフィニッシュのバリエーションごとにサウンドキャラクターが大きく変わるのも面白いポイント。
力強く存在感のあるトーンで、ジャズ・ポップスの中でも「人と違う色」を出したいプレイヤーから高く評価されています。
Grassi (グラッシ)
イタリアのサックスブランドで、現在は主にビンテージ市場でその名を見ることが多くなりました。
堅実な作りと素直で扱いやすいサウンドが特長で、イタリア製ビンテージとしては比較的手ごろな価格帯で流通していることも多いです。
Professional 2000 などのモデルは、太めで温かいトーンを持ち、ジャズ・ポップスだけでなく、吹奏楽でも「少し個性的なイタリアンサウンド」を狙いたい方におすすめです。
まとめ
サックスと一口に言っても、その背景にはフランス・アメリカ・ドイツ・イタリア、そして日本と、それぞれの国の歴史や文化に根ざした、実に多彩なメーカー・ブランドが存在します。
フランス系の華やかで繊細なサウンド、アメリカ系の太く骨太なヴィンテージトーン、ドイツ系・イタリア系の個性豊かな響き、日本ブランドの精度と安心感――。
どのブランドにも、それぞれの「物語」と「音色の個性」があり、ビンテージまで視野を広げると、その世界はさらに奥深くなっていきます。
今回ご紹介したのは、ほんの入り口にすぎません。
ぜひ、気になるブランドやモデルを実際に吹き比べて、「自分だけの一本」と出会うきっかけにしていただけたら嬉しいです。



日本
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